0911+1
9月も一週間ぐらい過ぎるとその日まで本当に指折りという事で、
そんなものなくたって、自分はこうやって居るし、この日だと決めて出てくる訳でも無いから別にそんなに特別なものだとは思わなかった。
ここに来てからこの連中はどうしてこんなに、と驚くまでに部員一人一人の誕生日というものを大事にしている。
レギュラー以外は月に纏めての会になってしまうのだが…(ケーキ食ってミーティング) 騒がしい事この上無くてマイペースだったり驚かしたり祝い事が好きな性も兼ね備えているのかなと思う。
そうこうしている内にとうとう10日から11日に日付が変わろうとしていた。
去年と違う点と言えば半年前に謙也に告白された、それ以前は全然彼は部活仲間であり友達だった筈なのに、 そういうのは自分だけのネタだと思っていたのに。
…こいつもなのか、と解ってしまうと見る目もガラリと変わってしまってあれよあれよと恋人のようなそんな感じに落ち着き…今に至る。
どこが良くて見初められたのかとか考えれば考えるほどに首を傾げてしまうのだが、 意識していく内にすっかり自分は乗っていると気が付いて愕然としたのは言うまでもない、 ショックだったというより意外すぎたのだと思う。
こういう特別な日というのは親密な間柄の者だと、重要視…される事のが多い、 やれ出会った日だの、やれ付き合い出した日だの…云々。別にそういうのはどうでもよかった、 そんな日に拘らずに一緒に居れたらいいという考えだったから。
特別な感情を持って付き合うというのは何をどうこうする訳でもない、一緒に居る時間を少しでも作ったり、人より沢山触れてみたりだとか、 そんな他愛もないやりとりをする内に気持ちは盛り上がるものであって、それはとても満たされていた。そして今日は自分にしたら特別な日だから余計に。
自分が人を好きになる、という基準はその人と居て、十分満足しているというか、充実している、 人と付き合いそのものが上手くないからだいたいそんな感じで、話せないなら下手に取り繕う事もしない、自分とは少し空気が違うと感じた謙也も最初はそうだった。
…だから小春に対する思いというものはそういうものであってそれ以下でもそれ以上でもなかった。 好きという気持ちには色々あるのだと謙也とそういう仲になって初めて知った訳である。
「小春は小春で好きやねん、せやけど全然ちゃうねん…ええんかな、小春にも、お前にも悪いやんな」
「俺そういう所好きなんや、自分はええくせに人の事ばっか気にしとるそんなアホな所がな」
自分のハッキリしない曖昧な気持ちを一度愚痴った事があって、考えすぎだとわらわれた事があった 、自分にしたら大事な人が一度に沢山出来てしまうなんて事有り得なかったから。
「せや、ユウジは小春に抱き合うたりチューはするかもしれへんけど、それ以上はあらへんやろ」
「それ以上か、考えられへんわ…小春は何かそれ以上の事とか…アカン、無理無理っ」
可能かどうかなんて何度も頭の中で考えたりした、小春がどう反応するかだとか、何と言ってくるかだとか。
何度も考える割にはビジョンが全然浮かばない、寧ろ、 そこは浮かんではいけない区域だと自分で自分に言い聞かせてどうにかネタで収まった有様。
「ほんで俺やったらそれ以上出来るやろ、その差って凄いよな、いや凄いわ、俺小春超えてんのとちゃう?」
何やその結論、と半ばよく解らないまま、謙也が嬉しそうにしてるから良いかと納得したのは言うまでもない、 恋人になってしまえば自分だってそれが一番嬉しい、こうやって謙也への気持ちは日に膨れてしまったのである。
そんな事を思い出しながら去年とは違うからと更に勝手に期待している自分が少し恥ずかしいようにも思えた。
しかし前の日の帰りには特にそのような話題もなく、普通に部活をやり、帰宅したのを考えつつ就寝する。
11日の朝、目覚ましがいつもの刻を告げるにも関わらずに自分はまだベッドの中に居た、 手を伸ばしてその音を止めようとすると次いで携帯の振動音、音を鳴らしていないにも関わらずにこれで起きれるのでかなり重宝し、 これで起きれなかったらもう後がない、という最終手段だ。
何度か耳元に置いていた携帯が震えると暫くして彼だけ違う特別な着信音が鳴り出すとようやく目を覚ます事が出来た。
何時だったか寝起きの悪さを指摘されてから、謙也からの着信がないと完全には覚醒できなくなってしまいそれでようやく起きることができるのはもう習慣みたいなものかもしれない。
学校へ行く支度をして今からだと朝練ギリギリセーフに着くかなと家を出る。
別に今日が9月11日で、それが何の日という訳もなく普通の日のようであって、 クラスも同じで一番傍に居て連れ添っている間柄の小春まで、 何も変わらない有様だから今までの対応から一遍してしまっている現状にだったら自分の存在って何だろう とか時間が経つにつれて思うようになって、帰る間際までとうとうそんな言葉すら掛けられる事なく過ぎてしまったので、 期待していた自分が何か馬鹿らしくて逆に笑えた。
部活でなにかしでかしてしまったのかとかも考えるけど、特にそんな事したような覚えは無いし 昨日まで普通に皆と話してた筈なのに「ほならお疲れー」と言って皆自分のペースに帰っていくのでもう気にしない事にした。
それならそれで、と期待してしまっていた為多少肩を落として 家路に着いてもこの歳で家庭内で今更盛大に何かする訳でもなく、こうして一日が過ぎようとしている。
こういう自分で勝手に膨らましてしまった期待の喪失というのは意外とダメージが大きかったりする、今日はもう寝てしまおうとベッドに潜り込んだ。
部活の奴等がどうスルーしようがどっちでもいい、どうせ嫌がらせだろうとそのうち解って来ると怒りを覚える所か文句の一つも言いたくなり八つ当たりしやすいからという理由で謙也のアドレスを開き
『生まれて来てすまんかった…冗談キツイわアホ、死ね、今すぐ人生終わっとけ!ほんで生まれた有り難みを噛み締めろ!』
などと少し期待した自分が悔しかったので冗談でメールを送る、送ってから数分後に
『アイツら押さえ込むん苦労したんやで、例年通り派手にやろうとしとってんから』
と返信が返ってくる。いやいや、その意味が解らない(期待なんかしてへんかったけどな)とか思って口を尖らせると途端にまたメールを受信した。
(お前だけは一番にて思うとった俺がアホやったわ)と打ち込んだ途中の文章を消した。 そんな遣り取りをしている内に自分の返信を待たずに受信したメールはのの日付けは12日目前だった。
『当日スルーで不意打ちで泣かせたろ作戦狙うたのに、可愛え事言うから負けたわ』
余計意味の解らないメールに更に首を傾げて携帯のディスプレイを眺めていたらドサリと窓の外で妙な音がした。
気になったのでカーテンを開けて外を見渡すとどういう経路で自室がある二階まで来たのかは解らないが送信者本人が何故かサンタクロースの扮装をしてベランダに居た。
「な…何しとんねんお前、ちゅーかどないして登ってきてん!」
「スルーされてもて泣いてへんかなて来てみてんけど」
「誰が泣くか!ちゅーかお前が仕向けたんやろがっ、その格好については何も突っ込まんぞ!」
「…め、メリー…」
まるで(どや!)ともう自信満々に言うものだから言い掛けた所で一度開けた窓をピシャリと閉めカーテンで更に覆ったら謙也がベランダで正座をする影が映ったので少し可笑しくて頬を緩ませてそれを眺めた、手元が光っているから携帯を弄っているらしい。
『他の奴等に祝われた無かってん、堪忍な』
『せやからてサンタは無いわ…』
一応突っ込むのは悲しい性であって、どうせ誕生日+プレゼントとくればこの格好だ!とかなボケだろうと悟ってしまったからしょうがない。 渋々再度窓を開けたら飛びつかんばかりの勢いで愛想の良い笑顔が接近し怒るに怒れなくなってしまった、逆にその行為に少し涙ぐんでしまう程嬉しかったのは隠しておく。
「やっぱ泣いとるやん、泣きながら生まれてきたんやから今日ぐらい泣かせても罰当たらんわな」
「アホ…遅いやろが、もうこないなんすんな、心臓悪い」
「一日過ぎてもたけど、誕生日おめでと」
こんな精神的に迷惑なサプライズは来年はしないでほしい、とか何とかそこまでボケに走らなくてもいいのに、時期外れの白と赤の衣装に傍に来られると噴出してしまいそうなのが耐えられなくて思わず肩を震わせては大人しく彼に埋まってはぐずりながらその中はやけに暖かく感じて一番に思われている、というのを実感して一つ大人になった。
end