Natural colouring



何でコイツは周りも気にしないでこういう事を普通にやってしまうのか、
何で頭で考えとる事と口が一緒に付いてくるんやろか。

「あんな、ユウジ…俺、お前の事、割と好きやで?」

「…は?」

その言葉を聞いたのは二年に上がってから間もない頃、俺はとんでもない事を聞いたんちゃうかて耳を疑った。
テニス部の皆が居る手前、あまり大声じゃなかった事だけは褒めてやるべきか、部活が終了し皆だらりと疲れた体を引きずって部室へ戻り、駄弁りながらそれぞれのロッカーで着替えていただけのいつもの光景じゃないか。

それが、なんで、この展開やねん。

しかも"割と"て何やねん。

こないに騒がしく帰り支度をしている他の奴等なんかまるで目に入っておらず、 俺らの周りは真っ暗になって二人だけにピンライトを当てられてるんじゃないかとか、と俺は思わず周りをキョロキョロと見渡してしもた。
隣同士にロッカーを持つ俺と謙也は大体着替えながらくだらない事を言い合っとる事が多かったのに、 目の前の奴は何かちょいちゃう。
何が違うて上手く説明は出来ないが、妙に顔を強張らせて目なんか全然瞬きしよらんとこっち向いて 正直大丈夫かと心配になってしまうぐらいだ。
せやからそんな奴に俺はちょい一歩引いてしもた、そんでこういう時どない返してええか解からん(別に好きやて言われる事には嫌悪感が無い、どんな好きであろうと俺はオープンマインドや)し、ちょいネタで悪ふざけでもしとんのやろうかとか一応思案はしてみるものの、 そういえば謙也は部室に帰ってくるなり俺とは一言も話さずにウェアを脱いで制服のシャツを着込んだ直後にこの無茶振りや。


(何でコイツこんなガッチガチになって俺の方見とんねん、何でこんなに真っ直ぐ真剣な瞳向けとんねん)

普段からホモネタを繰り広げとる手前、こういう告白を過去に受けた記憶も手伝ってか男同士だとかそないなん気にせえへん俺は悲しいかな奴の様子でピンと来てしまう、コイツはガチだ。多分一世一代の告白なんやろう、て…思う。
いや、それにしても今回は予想外過ぎた、誰か、俺らの間に入って雰囲気をぶち壊してくれんかな、てどれだけ祈った事か、しかしその祈りは届く事無く、帰り支度を済ませた者は次から次へとこの部屋から帰ってしまう。
確かに、謙也と居ると面白いし何だって遠慮なく話せる安心感があるんは否めん。せやから、ちょっとノリのええ悪友やと俺は思とった、もし、奴の一世一代のイベントに傷を付けてしまえばその友情も壊れてしまうのだろうかとまで考えて俺は一歩下がったまま返した、苦肉の策や。

「お、俺も…わりかし好きやで、嫌いや無い」

好きと言う言葉だけでは誤解されそうな曖昧な返事をしてもた、これがアカンかったんやろか。

「そ…そうか、ははは、よかった…おおきになユウジ」

俺の返事を聞くと謙也は強張らせていた表情を緩めてくしゃっと音がしそうなぐらいの笑顔を見せた、 一遍意識してしまえばこの表情にドキッとさせられてしまう俺もまたガチな訳で。
俺の思い違いか何かの間違いやなかったら 一世一代のネタになってくれたらなんぼか幸せやったのに。
ちゅーか、何が"おおきに"やねん、何で礼言うねん…、ほんま謙也大丈夫やろか、今日コイツどっかで頭とか打ってんのとちゃうやろか。
大体俺やのうて一年で早速頭角出してきて謙也とダブルスの練習しとる光とかのがそういう仲ちゃうかて思うぐらいに見えとったのに何で俺やねん、ちゅーか、その好きにはどんだけの想いが込められとんねん。
ちゃんとした答えは俺の疑問が増えていくばかりで、何も出んかった。
普段の観察癖はこういう時あまり約に立たない、俺は人の頭の中までは観察なんか出来へんのやから。

特別好いとるだけやったら言う事やない、とか思うんはちゃうんやろか、言われてしまってからはもうその事だけが頭を支配するんや。
俺の返事を聞くと謙也はさっさと着替えを済ませ「ほな、また明日な」とか言うて先に帰ってしもた。
部室に残された俺は本当に一人になるまでその場に立ち尽くしとったとかそんな事どうでもええ。

それからは謙也の事をよう考えてまうようになった、別にあんな事を言われてからどう変わった訳でもない、普段通りにアホ言いあって朝夕の部活の時にだけ逢うだけの存在や。
好きって何やろう、友達としての好きやったら敢て言う事や無い、もしかしたら何かの勘違いか、俺の自意識過剰かもしれん。
あんな事を言われたかって何かが変化した訳じゃなかったから余計に"忍足謙也"と言う人物がどんなんやったかすら解からんなった。

しかも奴の事を考えると何か体の中心部が熱くなっとったんもまた事実。
それにいつものように話して隣に居るんは心地良いから困る。
奴の顔を見ると自然と話しが出来んくなってもて、無意味に傍に居る事はせんと少しだけ避けたりして、何やっとんねん俺。


ほんまに謙也は俺の事好きなんやろか、俺が勝手に段々と意識しとるだけとちゃうんやろか。

『やったらちゃんと聞けばええやないの』
こういう時、頭のキレる小春に相談したらええんやろかて思ったけど生憎妙な気持ちのままやからそれは留めとる。
そこらへんの女子より乙女心が解かる彼からしたらきっと、こう答えるんやろなて先に予想がついたからもあるけど、 俺には暗号だらけの難解な数式を解いても答えは一つだけしかあらへんのや、って言われるんが目に浮かぶ。 (生憎小春みたいに押しが出来んのやから悩んどるんやけどな)
何も考えんとすんなり落すんやのうて、こないしてじわじわと気にさせとる作戦なんやろうか、頭で考えて素直にそれを口にしとるだけやないんか謙也は。


「なぁユウジ、前言うた事覚えとるか?」
意識だけさせといて特に何も変化の無い謙也を見ると本当に腹立たしい、コイツはきっと天然でそれをやっとるんや。
部活が始まる前に着替えのタイミングが同じになってもてしょうがないから無言で俺らは制服からウェアに着替えとった。
俺と謙也の間の無言空間に耐えられんなったんか、ごそごそと準備をしながら謙也がその空間を裂いた、俺はピタリと動きを止めただけやけど、今コイツの顔とかよう見られん気がしたんや。
正直顔を逢わせるだけでも俺は解かるような反応をしてしもたんやと思う、これがもし俺の勘違いやったらとんだ間抜けや。
そんな俺を構わずに謙也は自分のペースで話しを続けとる、これもまた奴の特技やろうて。

「最近俺の事避けてへん?折角廊下で会うたてお前すぐに目反らしてどっか行ってまいよるやん」

こないな時の身長差はほんまにありがたいて思う、謙也は多分俺の方を痛いほど見とる、って解かるぐらいに視線が突き刺さっとるから、それを浴びる事になっても無駄に合わせる必要はあらへん。

「堪忍な、俺…何か足りんて何時も後んなって思い出しよんねん」

せやけど俺の言葉を聞かずに淡々と言う謙也がどんな顔をしているのかと気になって顔を上げてしまった。
見上げた先の奴の顔は今まで見た事もない、照れ臭そうにはにかんで笑うとるのにあの時の真剣な表情。
その表情に見とれた矢先に顔が近くなっもんやから、俺は目を見開いてしもた。
何しとるんやこいつ、マジで解からんくて頭が沸騰寸前や、ほんまに頭で考えとる事を素直にやってるんやって確信した。
目は見開いとる筈やのにどういう訳か見えとる範囲は多少ぼやけてはいるが明るい茶色、いつかこれをションベン頭とからかって掻き混ぜた事があったのを思い出した。

そういうやりとりをしとってもこいつは怒らずに笑い飛ばして俺の事も溝色とか言い返してネタにしとる辺り心地ええんやなぁ、とか意識が吹っ飛びそうになる合間に苦し紛れに考えて、やっぱり俺こいつに流されとる訳とちゃうかって、そういうのがほんの少しづつ地味に積もってきよったんやと思う。

「さ…、避けとったんは、その解からんかって、勝手に意識して、俺の勘違いやったらアホやん」

地味に積もってた謙也のええ所、好きな所が一瞬にして頭ん中に集まってすっかり否定は出来んくなっとった。それはたどたどしかったやろうけどちゃんと顔を向けて言えたんは俺にしては上出来やないかて。

「せやろな、フォロー足りんて思てん、ほんであない言うたらお前俺の事意識するんちゃうかなーて」

俺の言葉を聞いた謙也は頷きながら肩を揺らして笑うとる、俺にしたらここで(解かっとったんかい!)て裏手の一つでもかましたい所やっちゅーのに。

「好き、やで」

いつもヘラヘラしとる顔を引き締めさせたら謙也って只のイケメンや、それが何で俺にこないな事言うとるんやろ、て、暫くその言葉の意味が理解出来んかった。 悔し紛れに睨んだ俺の目からも更にドキドキさせてまう謙也の余裕そうな表情を見せられると今度は俺の体がガッチガチに硬直してもてその肩をしっかりと掴まれて逃げる事も隠れる事も出来んくされてもて、首の動脈がめっちゃ熱なっとるんが解かる、 ドクドク、と大きな音を立てて脈打って、俺は生きとるんやな、てどうでもええ事を考えとったりした。


それやのに、事もあろうか



…唇が触れ合うてた。


それも掠めるだけや無い、うっかり当たってしもた事故やとも思えんぐらいはっきり、謙也の唇の温度、感触、形が俺の唇へと移されとる。


「…んっ、ちょ…謙也…なななな、何しと…ッ」

思い切り俺の唇を吸うてくるから一瞬にして酸素を持って行かれてまうんやないかと錯覚して、そういえば顔は結構自由が利いた事を思い出して頭を後ろに引く。

「何て、好きやっちゅー証や、やっぱこないしたらちゃんと気持ち伝わるんかなーて」

顔を引いたらドクドク脈打っとった所から酸素を奪われて、無駄に呼吸もままならんくなって目の前の謙也がチカチカ点滅しとるように見えた。
ここが部室で、これから部員がゾロゾロとここに来て着替えを始めるというのに、俺は一体何をされたんや、て慌てて意味あらへんのは解かっとるけど腕で胸元を押しつつ謙也を見る。

「よ…よう解かった、解かったから」

「やっぱ可愛えわお前」

そないな事言われたかて、と眉を寄せるもまた唇が重なる、コイツアホやろ、いや、解かっとるけどアホや、アホ正直なんや。
ほんま、頭で考えとる事と行動を一緒にするんはどないかせえ、とか思いながらも拒否という選択肢はあらへんかったもんやから仕方あらへん。
こいつのそういう所が好きなんやて、二回目唇合わせてようやっと気が付いた俺も俺や。




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初めてキスをした時の事を思い出しとった、あれから付き合うて1年ぐらいは余裕で経っとるけど相変わらず謙也と居るんは心地良え。
付き合い出した頃はこんなんも中々出来んで悶々しとったのに、えらい成長やで。
普通に傍に居る手を繋いで歩いとってふと謙也を見て思わず噴出してもた、今当たり前のように数え切れんぐらいキスもして、それ以上の事もして、俺もコイツもお互いにほんまに好き、って解かり合うとるから余計可笑しなってもて、あぁ、あの時は青かったなて。

あれも考えあっての行動の癖に何か焦って上手いこと出来へんのや。
多分、コイツ、めっちゃ必死やったんやろな、て思い返したらまた愛しなってもて頬が緩んでまう。
そんな俺を横からじっと見ては首傾げて見とる謙也に俺から頬に口付けしたったら思いの他効果があるらしいて肩から抱すくめられてもた。
歩いとったから多少よろめいたが、それでも謙也の行動はいつも読めへんくて、天然で裏があらへんから毎回驚かされてばっかりや。それでも俺は肩を揺らして笑う。

俺を好いてくれたって理由がじわじわ解かって来る度に嬉しいて仕方なかったんもまた事実。

「何急に笑っとんねん、思い出し笑いか、エロい事でも考えとったんか?」

前ほどの言い合いにプラススキンシップが過度になってしまったがそれでも謙也と俺の間にある会話のリズムみたいなんは全然健在やからますます気持ちええ。
この気持ち良さと思わず笑うてしもた事を総合すればすなわちこうや。

「今笑いの神さんが降りてきよったんやで」

「はぁ?何やそれ…ってアカン、もう時間マジやばいでユウジ、二人して遅刻しよったら白石ブチキレやで!」

「何やねん、俺は今神さんと交信中やって…うおっ!」

意味解からんわ、と口を尖らせて遠慮も無く俺の頭を叩き、腕を引いたかと思えば慌てて駆け出しその強い力に俺は転びそうになりながら部室へと向かった。






end