An ending of the happiness



いつの間にかそういう仲になっとった、特に付き合うとるとかそういう意識も無く。
毎日きらきらしとった、隣に居れるんがほんまに心地良うて、気持ちようて、ずっとこういうのが続くと思とった。
男女間ならきっとこれが運命とか、臭い台詞吐いて一生を共に生きれるんやないかとかすら思った。
何で男やとアカンねん、とか理不尽な事考える俺は相当女々しくてイカれとるんやと思う。
周りから見ればよく絡んどる仲のええ中学生やないかと思うたんやけど。

ある時こんな風に言われた事があるのを思い出した。

「ユウジてアレやんな、何や居るんと居らんのと全然空気がちゃうよな」
「は?何やねんその微妙な位置」
「居ったら居ったで存在感っちゅーんはこう気持ちええんやけど居らんなったら酸素失うたみたいになってまう」
「よう解らんわ」
「実は俺もよう解らん」
「何かニュアンス違うんやけど大体察しといてや」
「察しろてアホか」

ただ仲がええだけの男友達でもここまで言われると流石に気持ち悪さを覚えるのが普通やないかなて一般的には思う。 せやけど、こんな事を言うた謙也は決まって何かバツが悪そうに落ち着かない視線を泳がせながら二人で居る時によう言うとる、 こいつ的には多分俺が空気ぐらいに大事な存在やと言いたかったんやろかて気が付いたんはもうちょい後になってからで、大体俺らは 空気=居るか居らんかよく解らない存在。みたいな認識しがちやったんやけどこの時既にそうは思わんかった。
空気と言われるとええ様に考えれば絶対必要なもの。
そして悪い様に考えるとあっても気が付かないもの。
後者で考えるとんな事を面と向かって言われれば拳握って思いっきり頬を抉ってやろうぐらいの恥ずかしさが込み上げてくるものだが やけに嬉しかったのを覚えている。
それと同時にそんな風に想うてくれとるんかと顔がニヤけてしまいそうになるのをどうにか顎を引き伸ばして堪えた。 大体そんな事をしていると変顔言うて笑われるのがオチだけどそれはそれで嬉しいもんや。
俺に言わせて見れば前者な訳であって謙也というのはそんぐらいの存在やった。

普通やったら有り得へん感情やったんやと思う、これが幸せって奴やとか一人でにやけたりしてベッド転がって 「ほな、また明日な」とか言う言葉ですら嬉くて中々寝付けんかったもんや。

…謙也は誰にでも優しい奴やと思う、もしかしたら俺の勘違いなだけかもしれん、自分の頭ん中ってのは 結構お目出度く出来とるらしくて、今思うたらこんな事普通誰にでも…という事でも全て自分の為だけにしてくれとる、 なんてアホな考えに行き着く。

若干頭が弱い所もあったんかもしれん、それが良え影響を与えとったんやったらそれはそれでええやん。
何にしろ、ちょっと態度が変わったんかなて思うたんは中学2年の頃やった、最初は何や軽い奴、としか思えへんかった のに、そんな会話を挟みながら段々麻薬のように俺の頭ん中でじわじわ溜まって膨れ上がっとって、結果"そういう意識"をしてまう事になった。
謙也は狡い、そういう事をほぼ無意識でやって退けとる、俺からすれば羨ましいやら鬱陶しいやら、何かイラっとさせるとか、 俺に無い部分を一杯持っとった、ほんまにええ奴てこういう事を言うんやろなて思うた。
そんな奴やから、誰にでもそういう感じやから、俺は引き付けられたんやと思う。

ふとした言葉や視線だけで体ん中がじわりと暖かいもんに包まれとるんが解って更に近なった頃、
お互い意識しとったんかは解らんぐらいのまだまだ内に秘めとった感情やったのに、それが一気に出た。
例えば傍に居らんと何か落ち着かんかったり、他の奴と話し込んで楽しそうにしとる姿見て妬いとったり。
無意識にそんなオーラ出しとるもんやから相方にはアッサリと見破られたりで何やかんや…
そん頃は学校へ行くという事よりも部活に励むという意識の方が強かったもんやから、自然とクラスは違えどチームメイトと過ごす方が多くなるのは当然の事で。 そんな中意識も高まってしもたから部活がアホかて言う程楽しいもんやった、部活に行けば奴と過ごす時間が増えるっちゅー単純な意識一つでこんなにも 青臭い春を送れるんやなぁて今になってしみじみ思うた、そら小春の存在もあったんかもしれんけど それ以上の気持ちの問題やんそんなもん。

その頃は流石に気が付いとったんやと思う、お互いのテンションは似たようなものやったし、見えない波長に色があるとすれば きっと近い色しとるんやろなて、せやけどこいつのそれはきらきら眩しいて俺のは酷く濁っとるような。

いくら仲が良い男友達だとしてもそこまで辿りつくだろうか、いや、多分それは無い。
まともに謙也という人に魅せられた中学3の夏、ほんまに眩しい奴やった。 眩しくて綺麗で、せやけどこの感情は俺の中に留めておく事にした。伝えたらきっと脆くて壊れそうな気がしたから、
好きから愛してる、の境界線を軽く越えてしもたんやと。

驚く事にそれを告白してきたのは俺からや無うて奴からやった、最初はほんまに信じられんかった。

「好きやねん」
「付き合ってくれんかな」

密かに想うとった俺からすればそれはとんでもない好都合、見れば本当に一世一大の告白やろかて思うぐらいの緊張感に あっさり飲まれてしもた俺は一言返事で了解してそういう仲になったんは記憶にも新しい。
何で?俺?いやまさか、とばかり考えたがそれは夢でも妄想でもなく紛れも無い現実やった。

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それから中学を出て、同じ高校を受験し、学科は違えど同じ大学にまで進学した、オマケに今ルームシェアなんちゅー今時の事もしとる。
何ちゅうか、これはすなわち同棲、付き合い始めた頃の時間の自由がきかん事を思えばなんちゅう幸せやねんて最初は頭の螺子が取れたんかて思うぐらいはしゃいどった、柄にもなく。
ずっとこないな時間が続くもんやと思うとったし人目を盗んで触れ合う時間だけがどんな隔たりをも超えられるんやと 信じて疑わんかったし、まさに男女間のそれと似た永遠を共に、なんて気にもなった。

最近になって細かい表情なんかで何思うとるかてすぐ解るんやけど、その間はこんな事すら予測せえへんかった。
よくよく考えればこんなん異常やし世間体にも色々問題やしお互いの行き着く先が同じもんやとは限らへん、今がが幸せやったらそれでええ、それほど俺の頭は目出度く出来とった。

それはまさに今、現実に起きてる事実が物語っとる。
「あー、堪忍な、待たせてしもて」
「かまへんて、いつもの事やし」
実際2〜3十分は待ったんかもしれへん、けどそれぐらい遅れたかて結果こないして居るんやから咎めるほどの事やあらへん。
小脇に抱える分厚い医学書を抱えてへらりと申し訳なさそうにやけど中学ん時と変わらん愛想のええ笑顔を振り撒く。
実家の家業やて言うだけで当たり前のように敷かれたレールを進んどるこいつを見る度にどこまでお人よしのアホなんやろかとひっそり思うたんは内緒や。 それが謙也のええ所でもあって、何や自分の意思でなりたいモンにもなられへんのかいなとか、どっかでそんな謙也を羨ましかったり誇らし気に思うとったりとか、 何やその所為で謙也との時間を取られるんが腹立たしくなったりとか、俺は俺で自由にしとるから余計にイラついた。
昼はいつものようにキャンパス内のカフェで飯を一緒に食う。
待ち合わせなんかしてへんけど自然とこうなったからごく当たり前のようにその光景はいつもの事や。
中学の時はアホみたいに脱色した奴なんか滅多に居らんから遠目からもすぐに見分け付いた、今は少し落ち着いた色になってしもて少しがっかりしたけど 多分真っ黒やっても遠目で見分けられるその髪が俺の前で揺れながら向かいの席に慌しく座った。
目の前に座った奴を見れば中身は落ち着いていないあの頃のまんま、そんな謙也がえらい畏まって申し訳なさそうに苦笑浮かべとった、こういう時は大概良くない事を言い出すんやろかな、とか察する。

「あんなぁ、これほんま今さっきの話しやねんけどな」
ほら、来たで、俺の予想は大体当たるんや、妙に落ち着かんでそれでいて畏まった変な顔しとる時の奴はええ話し持って来えへん。
「なー…、その話て絶対聞かなアカン?」
「そら、一応は聞いて欲しいなて思て一番にお前に言うんやけど何やねん」
解ってまうねん、せやから聞くんが嫌やねん。

どんだけ傍居ったと思とんねんアホ。

今滅茶苦茶俺は嫌そうな顔しとるんやと思う、そんな顔を見て悟ったんかしらんけど謙也は困ったように笑うだけで居心地悪い空間が出来てしもた。


「やって、言わんでも解んねん」
「エスパーかお前は」
アホ、どんだけお前と居る思とんねん、お前の言い出しから顔から今までので総計したら…
「どうせどっか遠く行くとかそういうアレやろ」
言い出し難そうにしとったから俺が察して言うたったんやぞ、寧ろ感謝せえやなて顔で言うたったら謙也は目を見開いてぽかんと俺の方を見たまんまやった。
一緒に居るんが当たり前みたいになっとったから中学ん時の事とか思い出してもて、こいつ居らんなったら俺酸素失うてしまうんやろかとかロクな方に思考が行かへん。
「ほんま凄いな、顔に書いとったんやろか俺」
それやのに目の前で暢気に珈琲を飲みながら笑うとるコイツがほんま腹立つ。
人の気も知らんと…。
せやけど暢気に笑うとるように見せ掛けたコイツが一番困っとるんも解るから余計に腹立った。


「うっさいわ、何処でも行ってまえボケ」

「……………」
自分でも出てもた低声に吃驚する間も暫くまた沈黙、自分の声でこないな事言いたないんが見え見えな作り声。
謙也は片手で自分の後頭部を掻いて俺から目を逸らし、一旦息を吐いた。

「やっぱ行くん止めるわ」

「は?ボケ通り越して頭おかしなったんか?」

「せやかて俺が行ってしもたらユウジ君干からびてまいそうやしなぁ?」

…、何や…解っとるんやんけ、アホの癖にカマ掛けよるんかい。
それとも、行かんといて、とか言うて引き止めて泣きついて欲しいんかい。

「どんぐらいやねん」
「最低2年は向こうの医療を勉強してくる気で居ってん」

あー、そら熱心な事で、ちゅうかお前の面で医者様とか腹が捩れてまうわ、せやけど根が真面目なんも知っとるから、引き止める理由も 見つからへんし、そこまでする権利が俺にはあらへん。
「行ったらええやん、そのカラッポの頭ん中びっしり何やら埋めてきたらええやん」
「お前、マジで言うとんの?」
「謙也かて結構マジやろが」
「引き止めてくれへんの?」
「アホか」
へっ、と鼻で笑って席を立って片手振りつつ俺は振り返る事なく逃げるようにしてその場を去った、どうせやったらこのまま逆ギレでもしてはいさようならのが気分ええわ。
俺が迷わせる原因になるんやったらまず俺が引いたらなアカン、そこまで謙也の頭は人の事ばっかり考えとるお目出度い頭や。
潔くそのまま午後の講義をサボって案の定まだ帰ってへんのをええ事に結構一緒に暮らしとったアパートの自室の片付けを始めた。




多分、これが幸せの結末なんやと思う。





end