paranoid personality disorder



保健室という場所は別に嫌いやなかった、不謹慎やけど俺には何かと面倒な事があると理由を付けて此処で一眠りできる快適な場所。

別に体の具合が悪い、という訳やないけど頭がぐるぐるしたままでこないして運ばれるんは初めての体験やった、学校が休みだから当然保険医は居ないが開放されたそこに入ると無駄に足を運んどったこの場所が今日は神聖な場所に見える、いや、懺悔室やろか。
謙也さんの背中は涙が出るほど暖かくて離れたない、とか思うぐらいベッドに下ろされ座ってからやけにベッドが冷た感じた。

「俺保健室嫌いになりそうっすわ…」

子供みたいな事言うとると思うけど今の俺にはこの神聖な場所がかなり痛くて自分でも解る程に顔を歪ませとった。

「俺も嫌いやわ、ちゅーか好んで利用しとんのはあの絶頂男だけやと思うで」

座って顔を歪めとる俺に向かう様にして傍のパイプ椅子を引き寄せ座るとほんまに屈託ない笑顔を見せてくる謙也さんが羨ましい。

「で、腹の調子どないやねん、消費期限とっくに過ぎた牛乳飲んだんか?」

それでおかしくなってしまったのだったらどれだけ楽だったか、この人のペース言うんはいつもこうや、それがええ所や思うけど人の気も知らんで、という訳やないのがまた羨ましい。

「確認もせんとがっつくんは謙也さんだけでええと思いますけど」


(悪いモンに当てられたんは間違ってへんわ、悪いモンやないけど)

ここに居るとその悪いモンはかき消されて上手い事言えんけど不思議とさっきのような足の震えなんかは消えとった、それは自分の気持ち次第の事であって保健室の所為でもあらへんし謙也さんに借り出来てしもたやんかとかは思わないようにしとく。

「んな頭ガッチガチにしとるから訳わからんなんねん、最近変や思とったんは、お前顔によう書いとるからやで」

謙也さんは少し退屈そうに椅子に足を組むとつま先をぷらぷらと振る先しか見えへんかった、まるで俺の事茶化しとるようにも見えるんが腹立つ、そやけどそうや無いんはよう解っとる。
顔に出して言う事言うたら神経逆撫でる事ばっかやって、顔で解んなら別に言う事ないやん、て思うんも解っとる…ただの屁理屈や。
好意的な事を言えば、言わんでええ事の方が多い、せやから俺は自然とそういう言葉を吐かんようになった、寧ろ、吐いてもしゃーないわとかな諦め癖と面倒さでどうでも良くなる。自分が意もせんと称されとる単語は、俺やったら何やっても出来るやろ、て周りが皮肉に付けたんやないかて…それがこないな所で邪魔になっとる。
いつの頃から俺が好意的な事言うても言われた方はさぞかしええ気分にはならんやろな、て卑屈に思うようになった。
それが俺のスタンスでもう当たり前のようになってもて、今更素直になれんくなった。自然には振舞えとる筈やのに一言一言に毒を上乗せして出来て当たり前、出来んのは未熟やから、とかもう最低や…未熟なんは俺やのに。

何でこないに頭が混乱してまうんかて…、諦めた無いからやと思う、せやけど言葉にするんが怖い、嫌われたない、それ所が好かれたい、もっと好きになってもて、頭から離れてくれへん、離れんくて、余計気持ちは膨れてもて諦められん…、今まで通りは嫌や、どんだけ我儘やねん。
諦めたないから頭で必死になって

(いつもみたいに出来とらんとか苦汁を飲まされる気分や。…そう言うたら謙也さんは青汁が好きやったもんな、こないな飲まされ方されるとは思わんかったわ…)

言い出そうとしたけどそれは止めといた、絶対"もう一杯"は頂きたない。

「ようさん悩むんはええやろけど、頭だけやったらどないもならんで、俺やったら禿げてまうわ」


……せやけど、謙也さんの言葉が一々突き刺さって余計自分はこないに上手いこと出来んのやて思い知らされて、頷いてもたら自分が自分やない気分になる。
逃げたいんか、追いたいんか、甘えとるだけなんか、我儘言うとるだけか、
それは全部俺が未熟やから上手い事出来へんのやろ、とか納得してまえば楽になるんやろか。

「正直顔見とるんもしんどい」(さっきみたいになってまうから)

「ほな見んかったらええやん」

「どないしたいかもわからん」(解っとるけど甘えた事言うてみる)

「思うようにしたらええやん」

「………」(いや、無理やろ)

「黙っとっても解らんで、後で後悔する事のが多いんやで」

「八つ当たりしてええですか」(自分でもよう解っとるから一瞬イラっとした)

「なんでやねん、人生の先輩のアドバイスやん」

「半年程しか差あらへんのによう言いますわ…ほなら謙也さんやったらどないするんですか」

(そないお気楽に出来てへん、から困っとるんやん)

「せやな…当たって砕けろ的な?」

自分はなんぼでも砕けてええと思う、けどその後どないしたらええんや、ましてや女やない、もし先輩が本気でその"ほんまもん"やったとしても気まずなるんがオチやろ…あぁ、この人に悟られた俺がアホやった、面倒な事を面倒やと思わんで素直に物事解釈しとる人は要領よく生きとって全然思考の構造がちゃうらしい。 ほんま…俺こそが面倒な性格や。

「俺多分謙也さんとは大分違うみたいやと思うんやけど」

「まぁよう考え、話しくらいは聞いたる、最近財前見とったら何やこうムズムズすんねん…どないかしたろっちゅー訳やないけど、全然ちゃうんやったらそれはそれでええやんな、何や余分に答えが出て」

結局何が解決した訳でも無いけど、きっと俺が謙也さん側やったらそれはきっとムズムズや無うてイライラする、て言うてまうんやろな、とか思うたら可笑しなった。


「ほな、俺部活行くわ、お前は暫くそこ居れやな」

そう言いながら俺の返答を聞かずにあっと言う間に椅子から立ち上がってぽんと俺の頭に手を置いて軽く叩いてはその手を離して上げひらりと振って部屋を後にする姿を追うぐらいしか出来んかった。
一人残された保健室は妙に殺風景で、心細くなる。腰を下ろしたままの冷たいベッドに足を上げて乗り上げるとすぐ傍の窓を開けた。校舎は静まり返っているのにグラウンドは他の部活動の声で賑やかだったから、幾分か心細さは消えとった。

9月初めやと言うのに開けた窓からは残暑は何処へやら心地良い風が吹き込んで白いカーテンを揺らす、返事は無いのはわかっているのに呟いて何かフに落ちなくて俺はそのままベッドに仰向けで寝転ぶ、そのまま身を沈めてしまいたいと感じる程に体が思う以上に言う事効かんかった。
ほんで少し目を閉じるとどうしたらええか、なんかは不思議と自然に浮かぶようになった、気持ちに素直になればええんやろ、て。

多分、俺は折角の助言をそのまま素直に聞いてしもたんかなて思う、間違うた方向で。

やっぱり俺の捻くれはどない叩いて貰うてもひん曲がったままやった。



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一件から俺はもっと先輩の事を見てから答え出そうと考えた訳や、ほんまに好きやとして、それは憧れとか羨ましさとかそういうモンだけやないて、一見俺にしてはえらい前向きな考え方になったんやないかと思う。
もしかしたらあんまり変わってへん、逃げとるんかもしれんけど、今はこないするしか無い、気持ちを押し付けるタイプやない、そっと見守るだけや、それでええねん。
そない思うたら前みたいに頭がぐちゃぐちゃにもならんくて、楽やった、前みたいに先輩らに心配される事も無くなった。…と思う。
ただ、結論に行き付くまでに気持ちが膨れ上がってしもとるなんて事は考えもせんかったし全然気が付かんかった。

そして一遍やってしもた日課で十分満足してエスカレートしたんは言うまでもない。
日々考える事が先輩の事で埋まって、それはそれでほんまに幸せやった、先輩が帰るとなると自分も少し時間を置いて帰り姿が見えんか見えるかぐらいの距離を保ちつつ自宅前まで歩いたり。
これやったら嫌われる事も傷つける事もあらへん、そんな得意の屁理屈で誰も居らん時に先輩のロッカーを開けては自然に自身が熱を持ち、麻薬のような匂いに夢中になってそれで熱を吐き出すんにも罪悪感を感じへん、寧ろそれで勃ってるという事が嬉しい。

もっと、もっとてなるとついには自分のジャージとそれをすり替えてしもたりもする、これは前やったら絶対にやろうなんて思わんかったなて行動力に吃驚した。
今日も、自然と着てるのは一氏と裏に刺繍が入った先輩のジャージ。体格が同じぐらいで助かったせいもあるけどそういう違和感に疎いあの人は気がつかんと俺のジャージ着て一人で体を前に倒してストレッチなんかしとる、一番傍に居る感じがした。


「ユウジ先輩、背中押したりましょか」

「お、頼むわ」

元々先輩にしたら俺はただの後輩やって、俺に対しては嫌いになる以前に今まで通りの接し方、せやけど俺は接されるだけで混乱しとったのに今は普通に話しも出来て、寧ろそれはそれで嬉しいてしゃーない、小春先輩と一緒に居る先輩も好きやて思うようになった。




To be continued?